パーキンソン病患者の生活指導・環境整備と転倒予防
Key Word:パーキンソン病,転倒予防,ホームエクササイズ,環境整備
Point
- パーキンソン病に対する転倒予防は,病期や病状を理解した上で生活指導や環境調整を行うことが重要である.
- 発症早期からの運動は,正しい方法と頻度の理解を促し,生活環境に沿った習慣化を目標に指導する.
- 転倒予防は,福祉用具の導入や視覚刺激の強調が有効であり,継続的な社会参加を目標に環境を整備する.
【はじめに】
パーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)患者の転倒は,前傾姿勢やすくみ現象などの運動症状に加え非運動症状が要因となり,病期の進行に伴いリスクが増大し,在宅生活の継続を困難とする因子となる場合が多い.Hoehn & Yahr (HY)分類ⅢおよびⅣでは30%以上が骨折の経験し1),骨折による安静や転倒経験による恐怖心は,二次的障害である廃用症候群を来たし,さらなる転倒の要因となり得る.高齢期に生活したい場所として,なるべく住み慣れた自宅を希望する高齢者が多く2),PD患者に対する生活指導や環境整備により転倒予防を図る取り組みは大変重要となる.
PD患者のみならず,一般的に転倒予防のためには,運動療法と併行して,生活指導や環境整備を行うことが推奨されている3).生活指導の中でもPD患者に有効性が示されているホームエクササイズ4,5)は,“正しい運動”を“正しい頻度”で“正しい量”を指導することがポイントであり,エビデンスをベースとして指導した後,理学療法士が定期的な効果判定を行い,病期・病状に合わせた修正が望まれる.本稿では,PD患者の在宅生活継続に向けた生活指導や環境整備についてHY分類に沿って述べていく.
HY分類Ⅰ~Ⅱ
この時期は,適切な服薬管理により運動症状がほとんど出現せず,歩行を含めた日常生活が自立している.近年,発症早期からの積極的な運動療法が推奨6)されており,この時期に実施する生活指導は,長期的な継続の導入的位置付けとなり重要である.日常生活動作(activities of daily living:ADL)が自立する時期に指導するホームエクササイズは,運動習慣の獲得が目的の一つとなるため,日常的に行えるウォーキングや階段昇降運動に加えて,バランス能力向上や姿勢改善などを目的とした内容で構成する5)(図1).当院でのホームエクササイズ指導は,患者自身をモデルとして作成する冊子に運動のポイントと中止基準を記載し,実施チェックシートを加える工夫をしている.またホームエクササイズの継続要因である仲間づくりや集団で実施する環境整備も検討するが,運動習慣がない高齢者は個人でできる運動を希望する7)こともあり,先ずはホームエクササイズの習慣化を最優先の目標としている.さらに,この時期には趣味活動を把握することも重要となる.特にPD患者おけるスポーツ活動は,多くの種目で効果が示され8-10),当院で支援する卓球サークルにおいても成果を確認している11).地域には,公民館サークルなど様々な活動機会が整備されており,理学療法士がこれらの情報収集に加えて,サークルの中心メンバーと面識を持ち,必要に応じたサポート体制を整備することが求められている.
HY分類Ⅱの段階では,転倒予防としてT字杖やノルディック杖(図2)などの歩行補助具導入を検討するが,これにより疲労感の出現防止効果や安全性の向上も期待できる.ノルディック杖歩行は,おもりを負荷したリュックサックを背負うことにより,骨盤の前傾角度が増加し前傾姿勢増悪の予防効果を期待できるが,体重15%以上の重量では腰部痛増悪のリスクが伴うため,注意が必要である12).
HY分類Ⅲ
この時期は,振戦や筋強剛,無動,姿勢反射障害などの様々な運動症状が著明に出現し,バランスや歩行能力が低下する.独歩移動が不安定となるため,安定性の高いウォーカーや歩行車などを各患者に合わせて選択し指導する.抑速ブレーキ付前腕支持型歩行車は,過度な前方への推進力を抑制し,歩行動作の安定性を高めることから,重度な前傾姿勢や突進現象を呈する患者に有用である(図3).歩行補助具の導入は,公共交通機関の利用控えや生活範囲の狭小化を招くきっかけとなる場合もあり,理学療法士が患者と共に実際の環境に赴き指導を行う重要性を強調したい.また,移動手段の変更に伴い外来通院リハビリテーションの継続が困難となる患者には,介護保険下での送迎サービス付きのリハビリテーションなどに切り替える環境整備も活動量確保のために重要となる.この時期のホームエクササイズはHY分類Ⅰ~Ⅱに準拠するが,バランス能力が低下していることや運動に対する意欲が低下しやすいことに留意し,安全性に配慮した環境と負荷量に調節して指導する.
更にこの時期は,在宅内での転倒リスクが増大するため,生活空間に合わせた転倒予防対策が必要となる.特にPD患者の特徴であるOFF時の状態を把握し,トイレや居間をはじめとした生活動線上の転倒予防は重要である.ON-OFFは24時間の症状日誌を作成することで,病状について患者のみならず家族の理解度を高める効果が期待され推奨したい.日本の家屋は廊下幅が狭いことも多く伝い歩きが主な移動手段となるため,動線上には手すりを設置するが,タンスやテーブルなどの安定した家具を配置することで代用が可能である.夜間の移動においては,電気紐の延長やリモコン付き電気への変更,足元に人感センサー付きライトを設置するなどの工夫により電気を点けるまでの転倒が防止できる.手すりは目的に応じて形状を選択するが,将来的な病状進行により変更が必要となる場合も多く,容易に着脱可能なタイプからの導入が推奨される.その他の福祉用具としてはシャワーチェアやバスボードが入浴時の転倒防止に有用だが,導入に合わせて実際の場面で練習を繰り返す取り組みが重要となる.また,PD患者は僅かな段差でも転倒のリスクが増加することから,このタイミングで生活動線上の段差解消を検討したい.
HY分類Ⅳ
この時期は,運動症状の更なる重度化や著明なすくみ現象により,自立した歩行移動が困難となる.基本的な移動手段は,HY分類Ⅲと同様に伝い歩きや歩行補助具を使用した歩行移動を継続するが,状態により介助者の協力が必須となる.特に問題となり易いすくみ現象の軽減には,目印などを利用した視覚刺激が効果的であり13,14),日常生活でよく活動する場所にビニールテープの貼付や格子模様のジョイントマット設置などを検討する(図4).その他の生活空間での転倒予防として,トイレへの移動は,日中に独居となる環境やOFF時,夜間トイレの場面を想定し,ポータブルトイレの導入も検討すべき時期となる.病状の変化により,これまで動線上の手すり替わりで使用していた家具が思わぬ危険因子となる場合があり,ADLレベルの変化と合わせて家屋環境を確認し整備する取り組みが必要である.
HY分類Ⅳでは,ADLで介助を要する機会の増加に伴い,介護者の介護負担が増大する場合が多く,適切な介助方法を指導することも重要となる.介助方法指導のポイントは,実際に介護者が行う場面を確認した上で評価し,「介護者が実施できる適切な介助方法」を指導することである.さらに介護保険を利用したデイサービスやデイケアなどへの参加は,患者自身の活動量向上や介助者の介護負担軽減に繋がるため,積極的に導入するべき環境整備となる.当院においては,神経難病患者を対象として介護者の負担軽減を目的としたレスパイトケアを推進している.レスパイトケアは,在宅スタッフが分析した在宅生活の継続を困難とする要因を繰り返し練習する短期集中的なリハビリテーションの提供が可能であり,患者のみならず医療・介護従事者の情報共有機会としても活用できる.
HY分類Ⅴ
この時期は,重度の運動症状が出現し移動手段が車椅子となり,ADLの介助量が増加する.長期臥床による廃用を予防するため,日常的な離床機会の確保が重要となるが,習慣化には移乗動作時の介助量軽減がポイントとなる.移乗介助量を軽減する福祉用具としてトランスファーボードがあるが,移動式のリフトも小型化しており検討したい.また離床に際しては,非運動症状である自律神経障害の出現に注意が必要であり,意識消失時の対処方法などを介護者に指導する.著明な起立性低血圧症状が出現する患者に対しては,リクライニング付き車椅子を導入することにより,リスク管理を行いながらの離床が可能となる.また車椅子での外出は僅かな段差が問題となるため,玄関アプローチへのスロープ設置と合わせて,路側帯の段差など近隣屋外環境を確認した上で介助方法を指導し,車椅子移動での外出機会継続を支援する.
【おわりに】
本稿では,HY分類別にパーキンソン病患者の生活指導・環境整備と転倒予防について説明した.パーキンソン病をはじめとした進行性疾患のリハビリテーションは,患者の病状や病態に合わせた対応ができるよう些細な変化も見逃さないことが求められる.これには患者や家族と定期的に関われる環境を整えておくことが重要となるが,COVID-19の影響により理学療法士が患者宅を訪問し患者や家族と直接関われる機会が減少し問題となっている.今後は遠隔で相談や指導ができるシステムの検討が必要となるだろう.
【参考文献】
1)眞野行生ら:眞野行生(編):高齢者の転倒とその対策.248-254,医歯薬出版1999
2)厚生労働省:平成28年度 厚生労働白書.46-80,https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/16/dl/1-02.pdf
3) Leland N et al:Does fall history influence residential adjustments?Gerontologist 2011;51:190-200
4)日本理学療法士学会:パーキンソン病理学療法診療ガイドライン2011.521-569,http://www.japanpt.or.jp/upload/jspt/obj/files/guideline/14_parkinsons_disease.pdf
5) Allyson F et al:Home-based prescribed exercise improves balance-related activities in people with Parkinson’s disease and has benefits similar to centre-based exercise: a systematic review.Journal of Physiotherapy 2019;65:189-199
6)Giuseppe F et al:Intensive rehabilitation treatment in early Parkinson’s disease: a randomized pilot study with a 2-year follow-up.Neurorehabil Neural Repair 2014;29:123-131
7)重松良祐ら:運動実践の頻度別にみた高齢者の特徴と運動継続に向けた課題.体育学研究2007;52:173-186
8)Dos Santos Delabary M et al:Effects of dance practice on functional mobility, motor symptoms and quality of life in people with Parkinson’s disease:a systematic review with meta-analysis.Aging Clin Exp Res 2018;7:727-735
9)Cash MF et al:Development of a community-based golf and exercise program for people with Parkinson’s disease.Complement Ther Clin Pract 2018;33:149-155
10)Li F et al:Tai chi and postural stability in patients with Parkinson’s disease.N Engl J Med 2012;366:511-519
11)Kenichi I et al:Table tennis for patients with Parkinson’s disease: A single-center, prospective pilot study.Clinical Parkinsonism & Related Disorders 2021;4
12)直井俊祐ら:リュックサック使用が立位姿勢の運動学・運動力学的変化に及ぼす影響-若年者と高齢者を対象として-.理学療法学2014;29:539-542
13)Ginis P et al:Cueing for people with Parkinson’s disease with freezing of gait::A narrative review of the state-of-the-art and novel perspectives.Ann Phys Rehabil Med 2018;61:407-413
14)山出宏一ら:パーキンソン病患者に対する逆説性歩行訓練における効率的歩幅の検討.理学療法科学2012;27:529-533
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