筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に対する呼吸理学療法について

筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に対する呼吸理学療法について

筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に対する呼吸理学療法について

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロンが徐々に機能を失い、筋力低下や筋萎縮を引き起こす進行性の神経疾患です。経過とともに呼吸筋にも影響を及ぼし、呼吸困難を引き起こします。特に球麻痺型の場合は嚥下機能障害に加え,息止め(air stack)が困難になり,咳嗽力なども低下します.ALS患者に対する呼吸理学療法は呼吸評価から始まり,肺実質を硬くしないようなアプローチや人工呼吸をする場合はMI-Eなどの排痰機器装置についての知識を持っておくことが非常に重要です。

呼吸理学療法の概要

呼吸筋が弱まると、酸素を十分に取り込むことが難しくなり、息切れや疲労感が増します。また、咳嗽力が弱まるため、痰の排出が困難になり、肺炎などの感染症リスクが高まります。そのため、病初期から呼吸機能評価を定期的に行い、予防的なアプローチとしてLVRを早い段階から導入しておくことが重要です。呼吸機能や咳嗽力が低下してきたタイミングではMI-E(Mechanical Insufflator-Exsufflator)などの機器を使用し、肺炎のリスクを予防する必要があります。

呼吸理学療法の方法

1.呼吸機能評価

呼吸機能評価は、病初期から定期的にチェックすることが重要です。

評価には、肺活量(VC)、咳嗽力(CPF)、MICやLICを導入している場合は、MIC+VC、MIC+CPFもしくはLIC+VCを測定します。

上記の評価の経過を追い、VC1500〜2000ml以下、CPF270L/min以下(風邪などを引いて痰が多量に出現した際に自力で痰を出すことができない目安)もしくは160L/min以下(普段の生活においても、痰を出すことの困難さや誤嚥を認める目安)のタイミングでは必ず適切な機器の紹介を行いましょう。

MIC+VCやLIC+VCに関しては、肺のコンプライアンス(柔軟性)が保たれていれば低下することはないはずなので、目標としてはこの数値が低下しないように日々のMICやLICトレーニングの実施をお願いしましょう。

またCPFが低下したタイミングでは、排痰補助装置(MI-E:Mechanical Insufflator-Exsufflator)の導入を主治医とともに検討します。注意点としては、現在の制度ではNPPVなどの人工呼吸の導入をしていないとMI-Eのレンタルが出来ないという点です。以下では、上記で出てきたそれぞれのトレーニングや機器の説明をしていきます。

肺活量(VC)の機器(簡易流量計)

咳嗽力(CPF:cough peak flow)

  

どちらの評価も可能であれば、背臥位と座位の2パターンの計測が好ましいです。

理由としては、背臥位と座位の違いを見るのも重要ですが、背臥位の経過を記録できていれば、座位が困難となった場合でも経過を追いやすいからです。また測定回数はバラツキを抑えるため、2回ほど測定し記録しておくと良いでしょう。

2.MIC(maximum insufflation capacity)トレーニング

MICトレーニングは、肺の柔らかさを維持するための呼吸トレーニングです。始める目安の時期としては、肺活量が1500~2000ml以下になったタイミングです。

MICトレーニングは、画像のようなエアクッションマスク、圧を管理するマノメーターバックバルブマスクが必要となります。この3つの機器をそろえれば、理学療法の介入時間だけではなく、日常生活の在宅時間でいつでもMICトレーニングを実施することができるのでとても効果的な方法です。

しかし、始める前には注意点があります。このMICトレーニングは肺に空気を入れて膨らませるような運動になるので、肺に圧をかけても問題がないか主治医に評価していただき、許可を頂く必要がありますので、この点だけは注意しましょう。

実際に行う際は、マスクの固定の仕方や実施する方と実施される方との息の合わせ方など難しい場合もありますので、まずは慣れているリハビリスタッフと一緒に練習してから在宅時間に落とし込むようにすると良いでしょう。またどのくらいの圧をかけるのかやどのような頻度、回数行うとよいかなどは個人差等もありますので、専門のスタッフなどに確認しましょう。

理想としては、40hpa程度圧をかけて行うことが推奨されていますが、実際に体験するとかなりの肺の広がりを感じますので、実際に患者様に指導や実施する機会がある方は、実際に体験してみると実施される患者様の気持ちが理解できると思いますので、ぜひ体験してみてください。

3.LIC(Lung Inflation Capacity)トレーニング

LICトレーニングの説明はほぼMICトレーニングで記載した通りとなりますが、画像のようなLICトレーナーという特別な機器を使用します。

LICトレーナーを使用するに推奨される患者様は、ご自身で息止め(air stack)が実施できない方や気管切開をされている方です。この器具は一方向弁が組み込まれているため、息止めが出来ない方でも深吸気が可能となり、肺をしっかりと膨らませることができるようになります。

新しい機器は不安も多いと思いますが、可能性が広がる機器であると考えます。購入する際には、販売している業者が使用方法について、詳しく説明や指導をしてくださります。

LICお問い合わせページ

4.排痰補助装置(MI-E:Mechanical Insufflator-Exsufflator)

呼吸機能が低下してしまい、咳の力が270L/minもしくは160L/min以下と咳の力が弱くなり、痰が出せなくなった場合は、画像のようなMI-Eに蛇腹やエアクッションマスクを取り付け、使用して痰を出していきます。MI-Eは、圧をかけて空気を一気に入れてから、陰圧で空気を一気に引くことにより、肺胞や気道にある痰を動かして痰を出します。

在宅では、ご家族などが行うことになりますが、マスクの固定の仕方や始める際の声掛けの仕方など練習しなければ難しいと思いますので、在宅に導入する際には、家族指導などのタイミングを設けることが望ましいです。画面上には1回換気量とCPF(咳の力)の数値が表示されます。MI-Eでの咳嗽力の数値(MI-E+CPF)が270L/minを超えているかなど確認するとしっかり効果的なMI-Eが行えているかなどを判断することができます。

マスクの固定などが甘い場合は、マスクの端から空気が漏れてしまい、十分な排痰が行えていない可能性があるので注意が必要です。不安な場合は実施している様子や画面の数値などを動画にとっておいて、定期的にチェックする環境にしておくとよいでしょう。

実際の圧力の設定や回数、実施頻度などは個人差がありますので主治医などと一緒に決めていくことになりますが、実施するタイミングとしては、本人が排痰を訴える場合はその都度必要ですが、特に訴えがない場合でも起床時、就寝前、毎食後の1日5回の実施が推奨されています。

またこの時期になると呼吸機能も低下して十分な換気が行えなくなるため、人工呼吸器も並行して導入することが多いです。人工呼吸器を導入するもう一つの理由としては、排痰補助装置単体では現在の国の制度上レンタルすることができないため、人工呼吸器とセットにして導入するケースが多いです。

最後に

適切なタイミングで適切な機器の紹介やアドバイスを行うためにも定期的な呼吸評価は必須となります。ALSの患者様やご担当されるスタッフの方などは定期的に評価できる環境を作っておくことが何よりも重要だと考えています。